狐に間違われた住持 [中能登・中能登町の民話・伝説]
(出典:『石川縣鹿島郡誌』(昭和3年発刊))
(昭和3年から遡って)7,80年前の話である。
最勝講(さいすこ)(中能登町最勝講)の住持が夜遅く七尾からの帰り道、急に大便をもよおし、近くに適当な人家が無かったので、徳前河原(どすがはら)の竹叢(たけやぶで)に分け入り大便をしていた。
そこへ近くに住むある臆病な男が通りかかった。竹薮の暗がりの中で、用をたし終えて立ち上がった住職にビックリして、狐が自分を化かしに出たと思い込み、物狂いのように住持を引っ捕らえた。そして
「おのれ狐め、オラを化かそうちゅうんかい」と怒り、持っていた担い棒を振り上げ、叩こうとした。
住持は
「わしは狐じゃない、最勝講の寺の住持じゃ」と言い聞かせた。しかしその住持の言い訳を聞いた男は、それを聞いて
「おのれ古狐め、なおもオラを化かそうとするのか」とさらに怒りを大きくし、烈火のごとく住持に撃ってかかった。
困り果てた住持は、撃ち叩かれながらもこんな興奮した男に何を言い訳しても通じぬと悟り、一計を案じた。そして言葉静かにこう言った。
「わしは、確かに汝の言うようにこの徳前川原に棲む古狐じゃ。今後は、心をいれかえ決して人を化かすような事はしませんから命だけは助けてください。助けてくれましたら、お礼にあなた様に福徳を与えます。」
そして懐の中から七尾の町で子供のために買った土産を取り出して、
「あなた様が、一文欲しいと思えば"一文"とうた唱(とな)えてから笛を吹きます。二文欲しいと思い"二文"と唱えて笛を吹きます。そうすると財宝は自分の思い通りに現れる」と言いました。
そして実際に"一文"と唱え、笛でピーヒャララ、"二文"と唱えピイヒャララ、最後に"五文"と言ってさらにまたピイヒャララと鳴らし、その都度財布から文銭をコッソリと出し、闇でよく見えぬ堂に置いた。
どれどれと実際に銭があるのを確認し喜んだ若者は住持を許して開放した。
住持は、嘘がバレタラたらまた何をされるか分からないので、ここぞとばかり逃げ帰った。
昨夜の臆病者は、翌日になってから、妻子も退けて、独り座敷に籠った。そして"一文"と唱えピイヒャララ、"二文"と唱えピイヒャララと吹いてみた。しかし何時まで経っても、銭など全然現れ出る様子が無い。
「さては、またもや狐に化かされたかな?」と疑ったりあれころ色々考えてみた。
そしてやっと「もしや、昨夜の狐と思った相手は本物の住持だったのかも」と思い至り、恐る恐るその寺を訪ねてみた。
住持は臆病者の問いに、じろっと視てから「その通りでござる」と答え、そして苦りきった顔で徐(おもむろ)に前夜の一部始終をその臆病者に語り聞かせた。
男はまさに自分の思い誤りであったと気付き"御坊に大変申し訳ない仕打ちをしてしまいました"と恐縮しひたすら謝りながら、逃げるように立ち去ったという奇談が今に伝わっています。







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